京都大学大学院 医学研究科 室田 浩司
1.はじめに
産官学の連携活動をテーマにした書籍、論文、レポートの数は非常に多い。そのいずれもが、示唆に富み、様々な論点や課題が整理されている。
また、見識の高い学識経験者や実務経験者からは、今後の産官学連携活動等の方向性について的確な提言がされている。そのような中で、改めて「産官学連携について論評する意義があるのか」と言う思いがある。一方で、最近の日本における産業状況や国家政策・財政状態を俯瞰すると、従来の産官学連携活動の枠組みの延長では対応しきれない状況が生じつつあるようにも感じる。今後の産官学における連携はいかにあるべきか。産官学連携活動等を取り巻く状況と今後の展望を整理しながら考察を進めていきたいと思う。
なお、筆者は、民間の製造企業での勤務を経て、1990 年より、ベンチャーキャピタル業務を中心とした投資事業に従事した後、2013 年5 月
に、現職に就任した。20 年以上に渡る投資業務の中で、産官学連携における支援を主業務としてきたわけではないものの、改めて振り返ってみると、様々な面で産官学連携にかかわってきたと実感している。2000 年代初頭の大学発ベンチャーブームにおける大学ベンチャーへの投資とその後の処理、大学・大学院での起業家教育やベンチャーキャピタリストの育成活動と教育カリキュラムの作成、大学への出向を含む大学発ベンチャーの設立支援活動、大学から生み出された大型知的財産の社会普及を促進するための株式会社の設立企画等といった経験が筆者の脳裏に思い浮かぶ。このような個人的な経験を背景とした視点から筆を進めていくため、産官学連携活動の中心で活躍されてきた方々から見ると、やや異質な視点からの記述となるかも知れないが、ご容赦いただければ幸甚である。