櫻井法務事務所 櫻井 博行
1. 緒言
主文「1 被告は、原告に対し、200 億円及びこれに対する平成13 年8 月23 日から支払済みまで年5 分の割合による金員を支払え。」とは、ある特許権持分確認等請求事件の判決の一部である。この文面(一部)のみでこの事件がどんな事件か、更には判決のいう「200 億円」が妥当か否かを判断することはできない。ただ、判決(平成16 年1 月30 日)時の産業界では巨額であるとの声が圧倒的であったし、更に、本判決を妥当とするなら今後日本の産業は立ち行かないであろうとの論者も相当数であったと記憶する。
さて、この事件、より具体的にはどんな事件だったか。裁判上の事件名では分かりにくいかも知れないが、これを青色発光ダイオード事件と換言すれば、発明者である中村修二氏がかつて勤務していた日亜化学を相手に起こした裁判であったと多く人に認識して頂けるのではないだろうか。また、ここまで言えば本件、職務発明1)にかかる内容が事件の根幹であったことについても同様と思料する。
本件の係争の客体は特許法上の発明2)であるが、実用新案法上は考案(実用新案法2 条1 項)であり、意匠法上は意匠(意匠法2 条1 項)であり、考案、意匠が特許法35 条1 項所定の要件を具備する創作である場合は、それぞれ職務考案、職務意匠として法上職務発明と同様の扱い3)がなされる。なお、特許庁が登録を所掌する①特許、②実用新案、③意匠、④商標のうち、④商標については、これを規律する商標法は商標を使用する者の「業務上の信用維持」と「需要者の保護」を目的として構成され、商標(商標法2 条1 項)に創作性を要求しておらず4)、商標は伝統的に選択物であると理解されてきたので商標法に職務創作の概念はない。
今日、知的財産法の領域で職務創作の規定を有する法律は、既述の特許法、実用新案法、意匠法に加え、著作権法、種苗法、半導体集積回路の回路配置に関する法律(半導体集積回路配置法との略称で呼ばれることが多い)である。
かかる状況下、平成25 年6 月7 日の閣議決定(知的財産に関する基本方針)及び平成25 年6 月25 日の知的財産戦略本部の知的財産推進計画2013 に基づき職務発明制度について現行法の見直しが進められている。
そこで、この見直しを契機に現行知的財産法下の職務創作制度の概要を本連載「知的財産権よもやま話」で取り上げることとした。
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